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島で味わいたい逸品。命がけで島に伝えられた「芋」を今に食べつなぐ対馬の郷土料理「ろくべえ」とは?

人気都市・福岡を訪れる人も、福岡に暮らす人も意外と知らないのが「福岡市は離島も近い」こと。福岡を楽しむみなさんにお届けしたい、福岡市内から直行できる離島の魅力を、島に暮らす地元ライターが紹介します。

(取材・文 対馬ライター 佐々木達也)

対馬ならでは。お芋の歴史と味わい方

秋から冬にかけて恋しくなる食べ物と言えば、「サツマイモ」です。焼き芋にすると、身も心もほっこりします。そんなサツマイモのことを皆さんはどのように呼んでいますか? 

「甘藷(かんしょ)」「唐芋(からいも・とういも)」「琉球芋(りゅうきゅういも)」など。地域や品種によって呼び方が違うこの芋を、対馬では「コウコイモ」と呼んでおり、漢字で書くと「孝行芋」と書きます。

なぜ、このような呼び方になったのか。諸説ありますが、耕地が少なく、作物の生産に苦労していた対馬の人たちがこの芋に幾度も命を救われていたことが関係するともいわれています。

サツマイモのルーツは、メキシコなど南米地域で、今から3000年以上も前から育てられていました。それがコロンブスによってヨーロッパに渡り、そこから世界中に広がりました。

日本へは、中国から琉球へ渡り、そこから薩摩へ伝えられました。このルーツを示すように、沖縄では「唐芋」、鹿児島では「琉球芋」や「唐芋」と呼ばれています。そして1730年代に青木昆陽が、飢饉対策のためにサツマイモを日本全国へ広めたと言われています。

ひとりの島民が命がけで伝えた「孝行芋」

対馬ではサツマイモが全国に広まる15年ほど前に、一人の農家によって伝えられました。農家の次男に生まれた原田三郎衛門が、薩摩から種芋を持ち帰ったのです。

当時の薩摩にとってサツマイモは1705年に琉球から伝来したばかりの大事なもの。種芋を藩の外に持ち出すことは禁止されていました。そんな中、原田三郎衛門は文字通り命がけで対馬へ種芋を持ち帰ったのです。

三郎衛門は種芋を持ち帰った後、対馬全域で栽培を指導し、普及に力を入れます。このあたりで「孝行芋」と呼ばれるようになっており、島民を救った三郎衛門は対馬藩から「孝行芋屋」の屋号を受け、孝行芋を作る農民が納める税を与えらえます。

原田三郎衛門の活躍には、対馬藩の重臣、陶山訥庵(すやま とつあん)が深くかかわっています。儒学者であり農政学者でもある陶山は、農作物などに大きな被害を与えていたイノシシを、動物・嬰児・傷病人保護を目的とする「生類憐みの令」が出されていた時代に、10年かけて島から駆逐する大事業を行った人として知られています。

決死の覚悟で薩摩藩から種芋を持ち帰った原田三郎衛門の行動は、陶山訥庵に影響を受け、島のためにと一念発起したと考えられています。ちなみに訥庵は様々な書物を書いて後世に残していて、その中には甘藷について書いた書もあるので、この書によって幕府が「サツマイモ」に気づいた可能性は大きいのではないか、私は思っています。

対馬の孝行芋はその後、朝鮮通信使によって朝鮮半島へ伝えられます。韓国でサツマイモのことを「コグマ」と呼んでいますが、これは孝行芋がなまって「コグマ」になったと言われています。

お芋を発酵させてつくる「せん」

さて、そんなドラマを経て対馬に伝わった孝行芋を、対馬の人はどんな風に食べているのか・・・。蒸かしたり、焼いたり、干したりといろいろな食べ方がありますが、対馬独特の食べ方が「発酵」です。

大切な食料だった芋を、長期保存し、様々な形で食べられるように、発酵の力を借りて加工したものを対馬では「せん」と呼んでいます。
「せん」作りでは、秋に収穫したサツマイモを細かく砕く工程に始まり、水に浸けたり、乾燥させたりを繰り返しながら、年明けの2月ごろまで3〜4か月をかけて作られます。
対馬では「せん」を作る工程を「せんだんご」づくりと呼び、対馬の冬の風物詩でしたが、重いものを運んだり、冷たい水を扱ったりと、かなりの重労働が伴うことからだんだんと作る人は少なくなっています。

「せん」から作られる郷土料理「ろくべえ」

長い工程を経て完成するサツマイモのでんぷんだけを集めた「せん」は、様々な料理に使われます。

代表的なものが「せんだんご」を粉にしたもので作るのが「ろくべい」です。「ろくべいせぎ」という専用の道具をつかって、練ったせんをお湯の中に押し出します。

見た目は独特ですが、口に入れるとサツマイモの感じはほとんどなく、プリッとした触感が新鮮な食べ物です。

「せん」は他にも、あんこを包んで蒸しあげる「せんだんご」や、白玉のようにぜんざいに入れるお菓子の材料等としても使われます。

長崎県の島原半島にも、サツマイモを粉にして食べる習慣がありますが、対馬とは製法が異なり味も違います。「せんだんご」作りの工程について紹介しているブログはこちら(対馬グルメ紹介「『せんだんご』への道~其の壱其の弐」)もご覧ください。

厳しい自然の中で生活してきた、対馬の人たちの生活の知恵。皆さんも対馬で、食べて体験してみませんか。