Re島めし 五島列島編 第1話
2017.01.11 (WED)
Re島めし とは
島の食材に、いつもと違う視点をかけ算してみたら、何が生まれるだろう?
島の食材・食文化を再発見し、「こんなふうに食べてみたらどう!?」をつくるプロジェクト。それが「Re島めし」。
島を旅し、こんなのどう!?をつくってくれるのは、
料理界のにぎやかアイディア一家、平野レミさんと義娘の和田明日香さん。
島のユニークな食材に、人との出会いというスパイスをふんだんにふりかけて。
さあ、どんなあたらしい料理が生まれるのか。
ゆかいな島めし旅の、はじまりはじまり!
オフィシャルブログ「主婦はつらいよ、たのしいよ。」
公式インスタグラム @askawada
オフィシャルサイト REMY
Re島めし 五島列島編 第1話
「おいしい話がやってきた。よく知らない島々から。」
こんにちは。和田明日香です。
東京生まれ、東京育ちの、もうすぐ30歳。
7年前に結婚し、今は3人の子どもたちのおかあさんです。
お姑さんの、料理愛好家・平野レミさんに、料理や人生のあれこれを教わりながら、毎日バタバタと、でも楽しくやってます。
その日は、4時半起きで朝の情報番組に出演。いったん帰って、 家族が食べた朝ごはんの片付けをしながら、午後の撮影に向けて料理の仕込み。 途中、心配性なクライアントからの電話に対応していたら、煮詰めていたソースを焦がした。
こういうバタバタな日に限って、合間の1時間に、むりやり打合せを入れていたりする。 この日もそうだった。九州から、新しい仕事の話をしにわざわざ東京まで来るそうだ。 「メールでも良かろうに……」なんて思いつつ時計を見たら、そろそろ約束の時間。待ち合わせのカフェまで自転車を飛ばした。
カフェでの打合せでお願いされたのは、夢のようなお仕事だった。
「島へ行って、おいしいものに出会い、それを使って料理してください。」
わたしは、なんにも考えず、
「なにそれ超うれしいですやります。」
と即答した。
「島」「おいしいもの」というワードが、あまりにグッときすぎた。 家事に育児に仕事に追われ、自由なひとり時間はほぼなし、大好きなビールもなかなか飲めず、 最近なんのために頑張ってるのかよくわからなくなっていたのだ。 今のわたしに必要なものは、全部その「島」とやらにあるような気さえした。 3人の子どもを世話する旦那さんの苦労も頭をよぎった。 でも、「島」に行けさえすれば、100倍返しで家族にやさしくできそう。 「島」への期待は完全に高まりきっていた。
「で、その「島」って、どこの島?」
どうやら、九州の先にある離島のことらしい。いくつか島の名前を挙げられたけど、 知っているのは屋久島ぐらいで、あとは聞いたこともない。つまり、どんな食材があって、 どんな料理ができるのか、ということは、正直想像がつかなかった。 まあ、困ったらおかあさん(姑の平野レミ)に聞いちゃえばいいし、きっと、自然のパワーみなぎる、 とれたてのあれやこれやが、わたしを待っているはず!…その時までは、すっかり浮かれモードだった。
午後の仕事も終え、子どもたちのお迎えへ。ごはんを作りながら、ふと、「東京って、なんでもあるよなぁ。 離島のほうが、食材調達は不便するんじゃ……。」なんてことを思った。 それに、ひとりで行って島のスーパーをのぞくだけじゃ、食材の良さはわからないだろう。 地元の人に話を聞くにしても、東京から来た浮かれポンチのわたしに、心を開いてくれるかな……。 ぽつりぽつりと心配ごとが出てきた。
なにより、ごはんを食べる子どもたちの顔を見ていたら、 わたしがいなくなっても大丈夫かな、なんて、ちょっと寂しくなったり。 結構、大きな決断をしてしまったことを、そのときになって気付いた。
「まずは、福岡へ」
「いきなり海の上で寝ることに」
美味しいごはんですでに大満足。でも、離島への旅はこれからが始まり。 夜の博多を走り抜けて、博多港へ。最初に訪れる五島列島の上五島へは、「太古」という名前のフェリーで行くらしい。 夜の11時に乗って、着くのは朝の5時半。つまり、海の上で眠るのだ。めちゃくちゃ興奮するじゃないの。
夜の海で星を眺めて飲むんだ!と、ビールを買い込んで、いざ乗船。
ドキドキで乗り込んだわりに、部屋で横になると、すぐ寝てしまった。 わたしがどっしりしてるのか、太古がどっしりしてるのか、どっちのおかげかはわからないけど、 揺れは全然気にならなかった。
3時頃目が覚めて、冒険を取り戻そうと、慌ててデッキに出た。 どこまでも暗い海の上に、まん丸の月が浮かび、水面に光の筋が出来ていた。 一見ロマンチック、だったんだけど、海の広さと暗さに飲み込まれてしまいそうで、ちょっと怖かった。海をナメちゃだめですよね。
部屋に戻って、またウトウトしていると、あっという間に目的地の青方港に到着。 いよいよ、最初の目的地、上五島に上陸!
……なんだけど、見渡す限り真っ暗で、島らしい景色は一切見えず。 寒かったので、そそくさとレンタカーに乗り込んだ。ホテルへ向かう道、突如、イルミネーションが現れた。 ぼんやり照らされている建物は、教会のようだった。
空には、東京よりずっと強い光りの星が、ぎゅうぎゅうに並んでいた。 しばらく窓に鼻を押し付けて空を見ていたら、運転席の中村さんが 「離島は星だけで観光になる、って誰かが言ってたなぁ」と言った。
真っ暗の道を抜けて、ホテル「マルゲリータ」に到着。 ロビーに一歩入った途端、洗練されたなんともオシャレな空間が広がっていて、 ホテルの方の説明もろくに聞かず、キャーキャー言いながら写真を撮りまくってしまった。
朝ごはんまで時間があったので、部屋でゆっくりお風呂に入ることにした。 バスタブにお湯を沸かそうと、浴室に入ると、信じられない景色が広がっていた。
これ、お風呂場の窓から見えた景色。じっとしてたら、涙が出てきそうだった。 息をのむ程うつくしいのに、なぜかとっても悲しい気持ちになった。刻一刻と色が変わっていくので、 もうこの景色は二度と見れないと、切なくなるからかな。よくわからないけど、とにかく胸が苦しくなった。
シャンプーで目を閉じている数秒の間に、すっかり色が変わってしまう。 この写真ぐらいの明るさのときは、ピンクとオレンジの光に照らされて、自分の肌がびっくりするぐらいきれいに見えた。 空とおなじように、肌もきれいに染まるもんだ。その時間だけの魔法にかかったみたいだった。
「いやー、朝日のおかげで、すっかりポエマーになっちゃいましたよ。」朝ごはんを食べながら、 同行してくれている九州チームの人たちに話した。「それはきっと、島の力だね~。島が本来の和田さんを引き出してるんだよ。 本当はすごくロマンチックな人なんじゃないの。」なんて言われた。
たしかに、忙しくてしばらく忘れてたけど、わたしは、じっくり考えたり感じたりすることを大切にして生きていたはず。 自分のことを思い出せた朝だった。
あんなに美しい朝日を見せてくれて、島に歓迎されたような気がする。ここにいる間は、出会う人や出合うもの、 もちろん食材に対しても、じっくりと向き合おう。上五島での最初のごはんは、じっくり噛み締めるのにちょうど良い、 島産食材の和食朝ごはんだった。